便所の扉

映画の感想など。糞を垂れ流す。

映画『光』(2017年大森立嗣監督作品)感想(ネタバレ注意)

f:id:JohnnyMasuwaka:20171125191736j:plain『光』観ました。まず音楽が凄かった。ジェフミルズのテクノミュージックと狂ったようにうねる樹木、血の色をした椿などの風景映像が合わさって美浜島が孕む尋常じゃないエネルギーと狂気を凄まじい形で演出していた(特に、禍々しいアート、造形物が信之と娘の椿と並んで映るシーンは本当にゾッとした。)。


そして自然という巨大すぎるエネルギー(暴力)そのものである美浜島で少年期までを過ごした主人公達。井浦新演じる信之は同級生の美花のことが好きで、美花がレイプされた時助けを求められて男を殺してしまう。しかし直後に美浜島は地震津波に見舞われ住民は全員避難。殺人の事実は誰にも気づかれなかった。信之は自分では何も考えない、美花の言いなりである。(少年期からそうであり、会う約束もいつも美花の方から切り出し、信之は絶対にそれに頷く。今も自分から動く事はなく、家庭でも妻にそのことを非難される場面がある。)瑛太が演じる輔は幼い時から父の虐待に苦しめられ、今もその記憶ゆえに父に逆らえず苦しんでいる。輔にとっては父にひどい仕打ちを受けた時ぎゅっと抱きしめてくれる信之だけが救いだった。そして今、輔は信之の存在を守護神へと昇華させ、過去の殺人の証拠をタネに信之に父を殺してもらおうとすがる。しかし信之は愛する美花のためにしか暴力を用いない(娘の椿が変質者から性的暴行を受けた時にも犯人を見つけて殺してやろうとはならなかった。)。輔は自ら父を殺すことは出来ない。なぜなら暴力はどこからともなくやってくるのではなく、人間の中から生まれるものなのだ。暴力を暴力で返しうる人間は信之だけなのである。こういったキャラ立ちが絶妙で、かつ説明的にならずに描かれていて良かったです。

輔が現れ、美花と再開することにより封じていたエネルギーが徐々に解き放たれていく様が恐ろしい。リミッターが次々に外れ美花のために輔を殺してしまうまでした挙句突き放され、家庭に戻る信之の空虚感。家庭を守るため沈黙する妻と無邪気に笑う娘が何とも後味が悪い。そして大人になっても父から暴力を受け続け、信之にも助けてもらえず、殺されてしまうまでの間、何度も信之の抱擁を思い出す輔が可哀想で悲しい。暴力に晒される不幸、暴力を持つ不幸、暴力のある世界で生きていく不幸を嫌という程描ききっていて凄かったです。


あとソナチネのあの台詞がありました。